top of page

Column

コラム

そもそも「生殖器との良好な関係」って、何でしょう?

〔Tarikaコラム〕

性教育のはじめの一歩は、自分自身のありのままの姿を愛すること。

それはからだも含めて「自分の身体や生殖器と、良好な関係になること」とも言えます。

でも身体はともかく、「生殖器との良好な関係」って、何でしょう?


じつは「生殖器との良好な関係」づくりは、特に現代人に重要なことがらとして、いま先進国を中心にさまざまな取り組みが進んでいます。


世界が目標とするSDGsのひとつ、ジェンダーの平等や「多様性と受容」を実現するにも、ひとりひとりが自分の生殖器と良い関係を築いてこそ、社会にその土台ができていきます。

とはいっても、特に日本では、大人になっても自分の生殖器をきちんと見たことのない女性が大半。マスターベーションやオーガズムなんて言葉も、なかなか口にできません。


これからの時代、子どもへの性教育とともに、大人も自分自身の生殖器と正面から向き合い、良好な関係を築いていくことは不可欠です。では、どうすればいいのか。ボディポジティブ代表のTarikaが解説します。


 

更年期とともにやってくる、ミドルエイジ・クライシス

――生殖器の機能などは、ほとんどの大人がきちんと学んでいないのが現状です。


 オープンに話したり学んだりするものじゃない、という親や世間からの刷り込みがあるからですよね。そういう呪縛の中で生きていても、問題がなければ構わないんです。ただ、どこかで、あれ?おかしいな?と感じてしまうと、人生の危機。何かが自由じゃない感覚に苛まれる。それが子育て世代以降に起こると、まさにミドルエイジ・クライシスです。


 じつは私自身がそうでした。早くに出産し、シングルマザーとして仕事と子育てに必死な中で、女性としての人生設計を考える時間的・経済的余裕などなかった。内面もぐちゃぐちゃで、「どうして私はほかの人と同じようにできないんだろう」と思い悩んでいました。

  子育て時代は尼僧のような生活(笑)。子どもを守るためには自分の女なんか捨てていいや、と思っていました。するとわりと早め、40代前半で更年期障害に。ひどい花粉症に始まって、尿モレや体調不良なんかに一気に襲われたんです。

 これは何だろう?どうしたらいいんだろう?当時はハンズオンエネルギーヒーリングを真面目に学んでいましたが、その中でも、やっぱり納得しきれなかった。人間と切っても切れない「死」や「生」や「性」が前面に出てこない。隠されている、と感じました。


 私はずっとヘアメイクの仕事をしてきたんですが、あるとき、男性向け雑誌のグラビア撮影の現場に初めて行きました。そこではみんな、女性モデルをより綺麗に、よりエロティックに撮るというテーマに、本当に真剣に向き合っていた。そのとき私は、ザッツライフ、これが人生なんだと思ったんです。(後で聞いたところによれば、裏ではみんなそれなりに遊んでいたみたいですが、私はバカみたいに純粋でしたね笑)


 誰もが目の前のことに真摯に取り組み、懸命に生きているというのは事実です。モデルの女の子たちは睡眠障害を抱えていたりと、けっして幸せじゃないのも現実。私には何もできないけれど、いま寄り添って話を聞くことくらいはできる。

 でも、これをヒーリングセミナーで話したら「エロ親父のニーズに加担した」と、ただ非難されただけでした。がっかりしたし、けっこう傷つきましたね。真摯に生きている他人の人生を、単純に良い悪いでジャッジできるのか? 人に癒しをもたらすはずのヒーリングの場さえ、こんなにも価値観が一面的で、狭量で、貧しいことにショックを受けました。


 そんなときに出合ったのがタオイズム*。チネイザン療法を知って、すばらしい先生について学ぶようになって、資格を取りにチェンマイにある「タオガーデン」へ行きました。チネイザンは古代中国のタオイストたちの秘技秘術が元になった施術で、タオガーデンから今や世界中へ広がっています。


 チネイザンではお腹のマッサージですが、「ヒーリングラブ」といって、膣のトレーニングや射精コントロールのプログラムもあります。性にもちゃんと向き合う、私自身のモヤモヤに正面から応えてくれるものでした。


 同時に、これまでの価値観が崩壊するものでもあったんです。


 タオガーデンで私、重症のものもらいになって、アールユーヴェーダの先生に診てもらいに行ったんですが、先生は私を見るなり「マスターベーションはちゃんとしていますか?」と大真面目な顔で訊ねるんです。目を白黒させて答えられないでいると、先生は「今あなたは免疫力が落ちていて、それは自分自身を歓ばせていないことが第一の原因だよ」と。ビタミン剤もあげるけれど、まずは自分の身体をちゃんとケアしなくちゃダメですよ、と諭されました。


 マスターベーションで自分自身を歓ばせることも、大事な身体のケアのひとつ。当然のように医師がそう言うのを聞いて、私自身も一面的な価値観にとらわれていたことに気づいたんです。


生殖器や性ホルモンが人生に与える多大な影響

――生殖器という器官は、私たちの日常や健康に、そんなにも影響を与えるものなんですか?


 タオイズムでは、感情は身体の臓器と密接な関係があると考えます。女性の生殖器は歓びと結びついてもいるけれど、トラウマが溜まる器官でもある。だからメンテナンスをして、きちんと歓びという機能、役割が働くようにすることが大事。「歓び」に関して自分をごまかしていると、自分と生殖器との関係性が歪んで、その人本来の生命のパワーが失われてしまうからです。


 チネイザンで行う生殖器のトレーニングは、いわば生命エネルギーのコントロール。男性の射精も女性の月経も、タオイズムでは生命エネルギーの放出です。それに翻弄されずにコントロールする術を学ぶ。会得すると女性の場合、生殖に使われない時の月経のエネルギーを、自分のために使うエネルギーに変換することもできるんだそうです。


 男性は、精子を溜め込むと何となく健康に良くないイメージがありますよね? でも、これも刷り込みのひとつで、本来は、時間が経った精子は老化するので生殖に向かないというだけ。精子の元となる細胞が精子になるのには70日以上かかるそうで、男性も、そのくらい長い時間をかけて身体の中で命を作っています。だからやっぱり、子どもを作りたい時以外は射精をコントロールして、その生命エネルギーを自分のために使うべきなんです。


――ということは、女性は閉経すると、生命エネルギーを自分のために使えるようになる?


 まさに、そうなんです。タオイズムをはじめとした東洋のエネルギーシステムでは、生殖器には3匹のヘビがとぐろを巻いて眠っている、と考えるんですが、このヘビこそがパワーの源。このヘビを目覚めさせ、その人本来の、またはそれ以上の力を引き出すための修行が世界中にあります。ヨガや太極拳もそのひとつです。

 

 女性の場合閉経すると、このヘビが身体の中を這い上がってきます。これまでになかったことなので身体がびっくりして、その反応が「更年期障害」として現れる。これは病気ではなくて、次のステージへ移行したという告知なんです。

 現在は人の一生が長くなり、女性は閉経後も何十年も生きられるようになった。「ヘビをが目覚める」エネルギーを自覚的に乗りこなせるようになると、人生の後半はどれほどの豊かさなのか、と思いませんか?


――体内にヘビ、と聞くと、何やら恐ろしいですが…。


 じつはヘビは古来から女性と仲良しでした。西洋の女性史を調べてみると、特に初期のキリスト教にとっては異教の弾圧が大きなミッションで、その異教とは女性中心の文明だったんです。徹底的に女を嫌っていた有名な神学者もいます。そしてキリスト教文化では、髪がヘビの「メデューサ」とか、イブをそそのかして知恵のリンゴを食べさせたのがヘビだったとか、ヘビが女性と関連する〝忌むべきもの〟とされてきた。でも、私たち日本の土着信仰では、ヘビは幸運の使者、神聖なものとしても祀られてもきた、敬い恐れる、畏怖の対象でした。

 歴史を調べていくと、初期のキリスト教があれほど女性を弾圧したのは、女性本来の生命力やパワーを恐れたからではないかと思えてなりません。

 そうして少なくとも2500年もの間、女性の生殖器はおとしめられ、女性が歓びを感じる能力も封印されてしまいました。たとえば女性のマスターベーションは、キリスト教圏では宗教的に禁じられていたし、日本では社会的に禁忌とされて、今も〝秘密の儀式〟のままです。


女も男も必要な「女性性の解放」

――生殖器と良好な関係を結ぶには、封印された能力を解放する必要がある、ということ?


 それが近年、話題になっている「女性性の解放」の、重要な一端をになっていると思います。世界中で行われているチネイザンのプログラムには、このテーマが多く、私も2009年、女性性の解放をめざす「女神の集い」というワークショップを始めて、コロナ以降は男女両方のためのワークショップ「サンクチュアリ」を開催しています。この頃やっと少しずつ一般にも受け入れられてきたのを感じます。


 「女性性」「男性性」は、現実の女性や男性とイコールではありません。女性も男性性を持っているし、男性の中にも女性性は存在する。でも長い間、女性性は虐げられてきたから、男性は自分の中の女性性を押し殺すし、女性は自尊心を失っているのが現状です。


 女性性を取り戻すには、「自分を解放する」という作業が必要。女性なら「生殖器に眠っている3匹のヘビ」=その人の生命のパワーを目覚めさせること。男性たちは、弱さとも見えるような内なる優しさ、傷つきやすさを受け入れること。私たちは、自分の身体に意識を向け、感情を解放して、身体と心の統合をめざすワークショップで段階的にその道筋を提供していますが、そうやって自分の女性性や男性性、つまりパワーを自覚して自尊心を取り戻すと、もっとも身近な大切な人たち、やパートナーとのコミュニケーションが断然、良くなるんです。


――性を学ぶことは多くの女性が関心を抱いているのに、心理的ハードルも高いです。


 グループでワークショップを行うことのメリットのひとつは、「みんな同じだったんだ」とわかること。まず、この共感性が大きなパワーになります。

ワークショップには、エッグエクササイズという卵型の貴石を使った膣のエクササイズを含むコースもあります。生殖器を鍛えることは、更年期の尿モレを防いだりと身体の自由度を高めるのに有効ですが、それ以上に「自尊心を高める」ことにつながると、私は思っています。


 最近、「風の時代」というキーワードが、ビジネス書でもよく取り上げられますよね。この言葉の出所は西洋占星術です。これまで約200年続いた星の配置が大きく変わって、「地の時代」から「風の時代」へシフトしているということで、「地=実存するもの」から「風=目に見えないもの」へと価値が移行していく時代に入ったということです。


 「女性性」が注目されはじめたのも、「風の時代」の流れかもしれません。既存のルールや社会構造を作り上げたのは「男性性」だから、そこでは女性が生きづらい。いま諸外国では女性首相も誕生していますが、一方で男性のトップが戦争を起こし、日本では男尊女卑思想の団体と政治との癒着が明らかになりました。

 宗教や神話、占星術などには「科学的じゃない」という批判が付いてまわるけれど、科学の歴史はせいぜい数百年。目に見えたり測ったりできるものだけを信じるという〝科学的な態度〟も、一種の宗教信仰でしょう。


 データは知識を与えますが、人間の問題を解決するのは知識ではなく知性です。人間の誕生から共にあった宗教や神話などには、無視できない知性が宿っていると思います。

(Tarika)


bottom of page